体験者インタビュー

「私が笑えば、息子も笑う」。だからトリプルネガティブ乳がんでも前向き 藤原 緑さん

一瞬で場を和ませるくったくのない笑顔と、ラジオパーソナリティー仕込みの軽妙なトーク。藤原緑さんが放つほがらかな雰囲気からは、彼女がトリプルネガティブ乳がん※の患者だったことは計り知れません。悲しみと戸惑いを乗り越え、闘病の日々を「今思えば幸せな時間」と振り返るまでに至った、心の軌跡を辿ります。

※乳がんのタイプの一つ。エストロゲン受容体、プロゲステロン受容体、HER2タンパクのいずれも持たない乳がん。薬物療法は、ホルモン療法、抗HER2薬は使わず、抗がん剤治療を行う。

 

悲しむ息子の姿に「しっかりしなくちゃ」

私は、45歳でステージⅡのトリプルネガティブ乳がんを発症しました。告知後、治療する病院を探し、予約を入れるのさえ、すべて友人まかせ。ショックで気持ちの整理がつかず、「自分で何も決められない状態」だったからです。病院で問診票に記入するのも、治療方針を決める医師に「何でもやります!」と言ったのも私ではなく友人でした。

そんな私を変えたのは、当時中学3年生と小学6年生の二人の息子。ある日、リビングにいた長男に目をやると、片足が震えていたんです。心因性のチック症でした。私の病気がわかる前から夫婦の問題で子どもに心労をかけ、そこに輪をかけた乳がん告知。親が察する以上の悲しみを人知れず息子に背負わせていたと、この時初めて気づきました。もっとしっかりしなくちゃ。人まかせではなく、「私が決める。自分の足で進もう」とやっと目が覚めたんです。

それからは、自分に起こることすべてを前向きに受け止められました。闘病中に大変だったことは何、とよく聞かれますが、むしろどうしたら笑って過ごせるか、そればかり考えていました。抗がん剤による脱毛中、ピンクのウィッグをかぶって家族を笑わせたりして。私が笑うと、息子も笑顔になるんです。お母さんは子どもにとっての太陽、心のバロメーターだと感じた瞬間でした。夏休み中、部活を休んで毎日病院に泊まってくれた次男。私を“オマエ”と呼ぶ半面、「重い荷物、持とうか」と不器用なやさしさで支えてくれて思春期の長男。今思えば乳がんのおかげで二人の息子と心を通わせられて、幸せな時間を過ごせたと思います。

 

「できない」ことより「今できる」こと

抗がん剤治療中は脱毛以外の副作用もあり、ケモブレインもその一つです。ケモブレインは記憶力や思考力が低下する症状で、抗がん剤治療を始めて3ヵ月経った頃から、言いたいことがあるのに言葉が出ない、何かを思い出すにも時間がかかり、記憶にうっすらベールがかかっている感じになりました。会社の電話番号が思い出せないことも。症状は抗がん剤治療が終わった今も回復せず、決め手となる対処法がないのが現状です。

長年ラジオのパーソナリティーを務めていたので、意のままに話せたあの頃の自分と比べて落ち込むこともありました。でも、今はこれでいいと受け入れています。できないことを嘆くより、今できることを形にしていこうって。症状とも上手く付き合えるようになり、人と話すときは“集中”のスイッチをオン!脳に力を入れる感じでぐっと集中するんです。ラジオのパーソナリティーにも復帰できました。

FM海老名の番組、「午後のひと時ホッとタイム」でピンクリボンコーナーを担当(13:00~)。

様々な副作用があったものの、抗がん剤がよく効いてがんは消滅。再発の可能性を限りなくゼロに近づけたくて、さらに温存手術、放射線治療を選択しました。抗がん剤と聞くと、副作用の辛さが先行して、踏み出せない人も多いでしょう。私が最優先したのは、「生きること」。そのための不安要素を最大限取り除くため、抗がん剤治療を選択しました。治療の選択を迫られたとき、自分が一番大事にしていることを自問すると、答えが見えてきます。

 

闘病中は「自分第一」がちょうどいい

私は人と交わることで元気になるタイプ。病院の待合室で他の患者さんに「大丈夫?」と気軽に話しかけるし、抗がん剤の点滴中も隣の患者さんとのおしゃべりが楽しみ。子育て中のお母さんにもたくさん出会い、その中で感じたことは、みんながんばりすぎ。病気になっても子どもを最優先し、自分を労わることは二の次なんです。眉間にシワを寄せて無理するより、自分を大事にしながら生きる姿を見せるほうが、結果として子どもに届くものがあるはず。病気のときこそ、人のためより、まず自分のために生きてみて。

 

子どもの元気のため、お母さんの元気を守る活動を開始

闘病中のお母さんに会うたび、お子さんの心の状態も気になって仕方ありませんでした。母親の病気を知って辛い思いをしていないかな。涙をがまんしていないかなって。子どもに悲しい思いをさせないためにも、お母さんの元気を守りたい。そんな思いから自助グループ「Company de Company」を立ち上げ、お母さんたちに向けた啓発活動を行っています。具体的には、横浜市内の学校や幼稚園に出向いて「乳がんセミナー」を行い、お母さん自身の健康と検診に対する意識向上を呼びかけています。子どもにとっての太陽は間違いなく母親だから、お子さんの元気のためにお母さんが健康でいてほしい。もし病気になっても前を向いてほしいですね。私の体験を通して感じたことを、お母さんたちに伝えたくて始めた活動です。これからも一人でも多くのお母さんにメッセージを届けていきます。

■「Company de Company」に注目!
横浜市の助成を受けて活動する自助グループ。乳がんと子宮頸がんを経験した、藤原さんを含む女性3人が中心となり2014年に発足。横浜市内の小学校を中心に、学校や幼稚園に出向いて乳がんセミナーを行い、PTAやママ仲間を介して広がりを見せている。また、横浜市男女共同参画センター・アートフォーラムあざみ野にて、女性特有のがんを罹患した人とその家族を対象に、不安を打ち明け、悩みを共有できるおしゃべり会を毎月開催。
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▽藤原 緑

役者、ラジオパーソナリティー。2人の息子を持つ母。NPO法人乳房健康研究会認定・上級ピンクリボンアドバイザーとして、当団体が主催するイベントの司会、乳がんセミナーの講師を担当。NPO法人キャンサーネットジャパン認定・乳がん体験者コーディネイター(BEC)を取得。「ピアサポートよこはま」で全がん種の患者、家族の電話相談、面談を行う。2014年より「Company de Company」の代表を務める。


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