「がんと就労」働きながら治すために
がんは不治の病ではなく、治る病気になった今、仕事とどう向き合うかという課題が出てきています。「世界対がんデー」の先日、「ネクストリボン2020」(朝日新聞社、日本対がん協会主催)が、治療と仕事を両立しながら誰もが共に働ける社会のあり方をテーマに、シンポジウムとトークイベントを開催しました。とても興味深い内容だったので紹介します。
がんと就労が語られる場合、患者側の声にスポットが当たることが多いですが、今回は患者とその上司が登壇し双方の思いを聞くことができました。印象的だったのは、コミュニケーションをとり胸襟をわけた話し合いの機会を持つことだという意見です。部下の復職にあたり上司は本人が希望する働き方をヒアリングし、部下は体力や通院の状況に応じて時短勤務などのフレキシブルな働き方を希望。結果、心身に負担のなく復職を果たせたと言います。「がん患者を特別視せず、親の介護や妊娠をしている社員と同じく時間に柔軟性が必要な社員という認識で接した」という上司の価値観も素晴らしかったです。
こうした理解ある会社の対応は、人材や資金が潤沢な大企業に限定した話と捉えがちです。実際そのような意見は多くあり、今回は中小企業三社の取り組みも紹介されました。そのうちの一社は、団体長期障害所得補償保険(GLTD)の加入、健康診断の徹底、上司や人事を通さず話ができる相談窓口の設置などを実施。人材が枯渇している中小企業は多く、病気や介護による社員の退職は企業にとって大きな痛手に。数千円の掛け金で済む所得保険等を義務化し、社員の生活を守る取り組みを充実させることは、企業への信頼度の向上、離職率の低下につながり、その結果、生産性がアップした言います。がん患者が働きやすい環境作りは、必ずしも莫大なコストを要するわけではないようです。
しかしながら、がん治療と仕事を両立させるための取り組みを始めた当初は、「甘やかし過ぎではないか」という意見もあったと言います。それに対して企業のトップが先陣を切って改革し、働く世代を取り巻くがんの現状を社員と共に学び、理解を深めるための努力と工夫を重ねて今に至るそう。患者にとって戻る場所があることは治療の希望にもつながるため、中小企業の経営者にぜひ向き合ってほしい課題です。
シンポジウムとトークイベントは、HPで動画配信されています。