『跳びはねる思考』にまなぶ。考え方次第でけっこう幸せ
【今日の一冊:視界がスッとひらける本】
東田直樹さんは、重度の自閉症で会話が困難ですが、書くことには非常に長けています。病気になって自分を否定したくなったときに読んだ東田さんの著書、『跳びはねる思考』に、“思考のハンドリング”を教わりました。幸せって、考え方次第なんだと。
東田さんの、障害者は不幸ではないという考え方は、がんになっても不幸ではない、と言い換えられると思うのです。不幸ではないと言った後に東田さんは、しあわせになるためには自分なりの価値観をもつことが重要、と続けます。
がんを告知され不安と恐怖の渦中から抜け出し、空を見上げる余裕ができたとき、支えてくれる人がいたな、今度は自分が誰かを支えたいなと思ったり、命には期限があり、だから何をするべきか見えたりします。自分なりの価値観が生まれやすいのは、大病の唯一と言っていい良いところでしょうか。
東田さんは、身に起こったことをすべて肯定的に捉えようなんてキレイ事は言いません。大変なことがあるたびに、それを自分の中できちんと整理できる人間になることを目標にしています。すべてが元通りになることも望んでいません。なぜって、景色は常に変化していると知っているからです。自分も景色の一部と捉え、以前できたことより、変化した今だからできることを見つけてほしいです。
とてもクレバーな東田さんですが、突然跳びはねたり、奇声を発したりする自分を子どもの頃は悪い人間と思っていました。「悪くない」と思えたのは自分自身を許せるようになったから。以来、自分のために生きると決めました。今でも弱さを自覚することはありますが、それは強くなるためではなく「助けてほしい」というメッセージを人に伝えるためだと言います。
病気になると不摂生を悔やみ、今まで通りに頑張れない自分を責める人がいますが、病気は誰のせいでも、ましてや自分が悪いわけでもない。それよりもなんとか良くなることを考えてほしく、もしもしんどくなったら、つらいと言葉に出すと手は差し伸べられます。闘病中、私はネガティブ発言ばかりの弱い人間だと思っていましたが、「弱みを見せられる人は強いのよ」と看護師さんに言われそんな考え方もあるんだと視界が開けたものです。これも思考のハンドリングですね。
本の最後に心に響く一文があります。
「重度の障害者は、何もできない人間に見られがちですが、実は強靭な精神力を持っている人も多いような気がします。つらい経験は、時に自分を強くするからです。人の手伝いがないと生きられないからといって、気持ちまで助けがいるとは限りません。自己の確立というのは、人とのつながりの中で育つものではなく、自分で自分のことを支えようとする生き方から、生まれるものだと思っています」(『跳びはねる思考』より抜粋)
私は、すべての患者さんの中に治す力が備わっていると信じてやみません。東田さんの言葉を借りれば、“自分で自分のことを支えようとする”力です。思考を切り替えて、もっと自分の力を信じていいと思います。