過去も未来もこわがらず今を生きる手引き書、『怖れ』
【今日の一冊:心配癖が抜けない人に贈る本】
ベトナムの禅僧、ティク・ナット・ハンが、「怖れ」という感情の対処法について書いています。手術は本当に上手くいくの? 再発するのでは? 抗がん剤を乗り切れるだろうか? がんになると様々な不安からくる怖れに縛られます。
私も随分と長い間、不安でたまらない日々を過ごしました。心がラクになったのは、不安にあらがわず受け入れられるようになったときから。不安に思うのは仕方がないこと。がんになったら心配事が増えて当然だ、と。同じようなことがこの本に書かれていて、無意識に実践していた自分にびっくりしました。
怒り、怖れ、心配、それらは自分自身の一部なので、取り除けば心が軽くなるかと言えばそうではありません。心に怖れがあることを認めて招き入れ、根源を深く見つめましょう、とティク・ナット・ハンは語りかけています。
若くして経験したがんの告知は、私にとっては少なからずトラウマです。過去を振り返れば今でも告知のシーンが映画のようによみがえり、「再びがんになったらどうしよう」と臆病な心が騒ぎ出します。しかし本書では、過去は過去にすぎず、人は過去に生きているのではなく、今ここに存在していると教えてくれました。また、予測不能な未来を心配しすぎるのも、あまり意味のないことだと。心が不安でいっぱいだと、自分が生きていることや、今この瞬間に幸せを感じられるという事実をみすみす逃してしまいます。心配性の私たちにティク・ナット・ハンが贈る、「過去はすでになく、未来はまだ来ない。いのちに触れられる機会はただひとつ、それは今この瞬間」というブッダの言葉が響きます。
本書では、怖れを迎え入れ、過去と未来にも縛られない方法として、瞑想によるマインドフルネスをすすめています。マインドフルネスとは、心が今ここにある状態のこと。怖れは過去や未来に思考がさらわれ(マインドレスな状態)、しなくてもいい心配をすることで現れます。だから瞑想で今に集中し、もし怖れの感情が浮かんだらそれに支配されるのではなく、ただ優しく受け入れることを目指して、と。
瞑想と聞くと宗教チックですが、瞑想から宗教色を排除して、集中力と心のコントロール力を高める効果だけをピックアップしたのがマインドフルネス瞑想です。これはスティーブ・ジョブズやマイケル・ジョーダンなど、ビジネスマンやトップアスリートも実践している手法。本書では、マインドフルネス瞑想のやり方も詳しく書いてあります。怖れに縛られて前に進めない人は、ティク・ナット・ハンの言葉に耳を傾け、マインドフルネス瞑想を試してみて。